2014年10月31日金曜日

映画「最後まで行く」



殺人課のコ刑事は、母の葬式に急ぐあまり、人を轢いてしまいます。パニックになったコ刑事は、被害者をクルマのトランクに積み込み、逃走します。

ちょうどその時、収賄の疑いでコ刑事の所属部署が警察の内部監察官から取り調べを受けます。事故の発覚を恐れたコ刑事は被害者の遺体を隠蔽することに成功します。

ホット一息ついたコ刑事のもとに、非通知の電話がかかり、コ刑事が遺体を隠蔽したことを告発すると告げるのでした。

次々と事件が起こり、とてもテンポよく話が進みます。無理な設定部分もありますが、あまり気になれずに楽しめます。スリリングな展開にドキドキしながら最後まで引きこまれました。

512.「人生教習所」 垣根 涼介

大人の落ちこぼれたちが小笠原諸島で受ける人生再生塾の話です。

この本を読むまで、小笠原諸島が1968年までアメリカ領であったことを知りませんでした。大変不勉強です。

日本返還により、その時点でグアムの高校に在学していた子供達はアメリカ国籍を選び、小笠原諸島の中学校に在籍していた子供達は日本国籍を選んだそうです。一つの家庭の中で国籍の異なる家族が存在する状況になりました。

小笠原諸島は、日本の他の島に比べて、新参者に対する許容度が広いようです。それは、島という閉鎖社会ゆえに泥棒が殆どいないという環境と、綺麗な海に憧れて住み着く新島民の流出入によるもののようです。

人生再生塾ということなので、実務的な講義内容かと思いましたが、その中心は、小笠原返還によって運命を左右されて島民達の体験談を聞く、社会学でした。登場人物たちは、国家、国籍、選択などを考えることで、自分の生き方を再構築して、社会に戻っていくのでした。


2014年10月30日木曜日

映画「これが私たちの終わりだ」


正直なところ、私には、あまりピンと来ませんでした。

コンビニエンスストアを舞台に若者たちの荒唐無稽なショートストーリーが次々に続きます。
同じキーワードが使われる話もありますが、ストーリー同士の関連性はあまりありません。

何を訴えたかったのか、どんな効果を狙ったのか、よく分からない映画でした。どうやら韓国の人気タレントを起用したアイドル映画だったようです。

2014年10月29日水曜日

511.「世界を戦争に導くグローバリズム」 中野 剛志

国家の政策には、理想主義と現実主義があり、政権はどちらかに振れるようです。

ブッシュ政権は、理想主義であったようです。正義の御旗のもと「テロとの戦い」に邁進し、サダム・フセインの独裁政権を壊滅させましたが、それが更なる混迷を産んでしまいました。

理想主義の政策を採っていた場合、不幸な結果を巻き起こすことが多いように感じました。

安倍政権は理想主義を採り、オバマ政権は現実主義を採っているようです。
これが両国間の軋轢を生んでいます。
日本はTPPにより安全保障が強化される(理想)と思い込んでいますが、アメリカはTPPに自国の雇用創造(現実)しか求めていません。
そのため、TPP交渉は難航しており、例え締結されたとしても日本には殆どメリットがありません。

そして、周囲に侵略国がなかったアメリカは、グローバル化というDNAを保有しています。他国を実質的に侵略することになるグローバル化は、他国の民主主義を阻害する結果を引き起こします。経済力を持った中国も非常にアメリカナイズされたグローバリズム国家です。中国の東アジアにおける侵略行動に留意しなければならないと思いました。


映画「慶州」


北京大学の教授チェ・ヒョンは、先輩の葬式のため、韓国に帰省します。葬式後、先輩と7年前に行った慶州のカフェに、思い出の春画を見るために訪ねます。カフェの女主人コン・ユニと親しくなったチェは、その友人達と一夜を過ごすことに・・・

正直なところ、話に脈絡がなく、何が言いたいのかよく分かりませんでした。

慶州という観光地を紹介するための映画か、それとも、風情を漂わせて雰囲気を感じさせる映画か。

随所に中華思想も見受けられました。
北京大学をありがたがる大学教授や、中国茶や中国たばこをありがたがる姿から中国への畏敬を感じました。
一方、日本のおばさん観光客がコンに、
「私は、過去に日本が犯した過ちを謝りたい。」
と謝罪する姿から日本への軽視を感じました。

最後まで、「よく分からない」というのが偽らざる気持ちでした。

2014年10月28日火曜日

510.「詐欺の帝王」 溝口 敦

「オレオレ詐欺の帝王」と呼ばれた男のインタビューから、詐欺についての全容を解き明かしています。

男は、大学時代にイベント・サークルに所属し、全国組織をまとめ上げ、ヴェルファーレなどのディスコに顔が効くようになります。

大学卒業後、大手広告代理店に勤務していましたが、スーフリ・レイプ事件で関与を疑われ、子会社に出向されたたために退社します。

イベントで貯めこんだ資金とノウハウを持っていた男は、ヤミ金で挙げられた五菱会に目をつけ、五菱会亡き後の後釜に座り込み、勢力を伸ばしていきます。

ヤミ金の店長達は、評価基準である利息回収率を上げるために、金を貸し付けていないところから金を引っ張るようになります。オレオレ詐欺による振込金をヤミ金の回収金に紛れ込ませたのです。その結果、回収率が信じられないほど上がりました。

つまり、オレオレ詐欺は、ヤミ金の回収率アップの原動力としてヤミ金から自然発生したそうです。

システム詐欺のカラクリが分かって、とても勉強になりました。


映画「怪しい彼女」



頑固で口が悪い70歳の老女、マルスンは、息子夫婦と孫2人の5人暮らし。
マルスンがある日、「青春写真館」で写真を撮ると、20歳に若返ってしまいます。

彼女は若い頃に、自由に出来なかった事を楽しみ始め、ひょんなきっかけから孫のバンドでボーカルとして歌い始めます。

老女が若返るというプロットは珍しくありませんが、細かい設定が面白いです。コメディタッチながら、シリアスな場面では泣かせます。

主演のシム・ウンギョンの歌が本当に素晴らしく、聞き惚れてしまいました。彼女が時たまキレるのですが、どこかで見たことがあると思いましたが、サニーのナミ役でもキレ芸を披露していました。

笑えて泣けてホッとするする、よく出来た映画でした。


2014年10月27日月曜日

509.「ビブリア古書堂の事件手帖2 ~栞子さんと謎めく日常~」三上 延

よく古書にまつわるネタが尽きないものだと感心しました。

短編3作からなりますが、古書にまつわる面白い逸話と謎解きとがうまく組み合わされています。

また、2巻では大輔の高校時代の恋愛や、栞子の母親との離別が語られ、登場人物の生い立ちが描かれています。

時計じかけのオレンジは、昔、映画で見たことがありますが、こんなエピソードがあるとは知りませんでした。本も読んでみたいと思いました。



2014年10月26日日曜日

508.「テキサス親父の大正論: 韓国・中国の屁理屈なんて普通のアメリカ人の俺でも崩せるぜ!」 トニー・マラーノ

基本的には、「テキサス親父の「怒れ! 罠にかかった日本人」と同内容です。

アメリカ人の立場から見た、中国と韓国の主張を論理的に論破しています。その論拠となる一時データは、米国政府のものなので客観性があります。

ここでも言われているのは、日韓基本条約のこと。
日本は韓国に、無償3億ドル、有償2億ドル、民間借款3億ドルの合計8億ドルを支払いました。
GHQ調査で52.5億ドルと見積もられた日本が創ったインフラも放棄しました。
そして、韓国は一切の請求権を放棄しています。そもそも韓国と戦争をしておらず、韓国は日本に併合されて一緒に戦ったのですから損害は生じていません。

この支払額は、韓国で損害を受けた人に分配されるべきものでしたが、朴正煕大統領は分配せず、社会インフラ整備のために、無断転用しました。これによってもたらされたのが、「漢江の奇跡」です。このことは韓国国民には知らされておりません。そのために、未だに韓国国民は日本は損害賠償をしていないと主張するのです。

朴槿恵は、「漢江の奇跡」の再来を期待されて大統領に当選しましたが、そんなものは起こるはずがありません。8億ドルもの融資をしてくれる国などないからです。そのため、日本に対して執拗に謝罪を求め、誠意の証としてのお金をたかっているのでしょうか。


2014年10月25日土曜日

507.「去年の冬、きみと別れ」 中村 文則

「僕」は、殺人犯の木原坂雄大について本を出版しようと、雄大が収監されている拘置所へ行きます。

雄大は、姉の朱里とともに児童養護施設で育ちました。幼いころから写真に興味を持ち、それが高じて写真家になります。その被写体は、最初は姉、次に蝶、そして人形へと移り変わっていきます。人形は、鈴木という人形師によって造られたもので見た者の心を捉えてしまいます。

「僕」は、雄大がなぜ二人の女性を焼き殺したのか、そして、なぜ燃えゆく様を写真に収めなかったのかという謎から抜け出せなくなってしまい・・・

描写が精緻で情景が鮮明に思い浮かびます。著者特有の陰鬱な描写は変わりませんが、洗練されてきており、読み手に暗い印象を与えながらも、気持ちを沈み込ませ過ぎません。


2014年10月24日金曜日

506.「大空では毎日、奇蹟が起きている。―JALのスタッフだけが知っている心温まるストーリー」 オープンブックス編集部

電車の中で読まないほうがいいです。泣き顔を他人に見られることになるかもしれません。

日本航空で働いているスタッフが体験した15の短いエピソード集です。とても短い話なのに、何故こんなに心動かされてしまうのでしょう。一遍の小説を読む以上に泣けてしまうのは、実話に基づく話が切実に身につまされるからでしょうか。

私は特に、震災で二人のお子さんを失った両親の話にとても感動しました。失った子供が飲みたがっていた「スカイタイム」は、お母さんにとってどんな味だったのでしょうか。

経営危機に陥ったのは、そこで働く人達の責任ではありませんが、つらい思いをしたこととと思います。そんな中でも、仕事に誇りを持って、乗客に尽くす姿勢が素晴らしいと思いました。



2014年10月23日木曜日

505.「テキサス親父の「怒れ! 罠にかかった日本人」トニー・マラーノ

トニー・マラーノさんは、ネットで「テキサス親父」として有名な方です。

テキサスという地名から、キリスト教原理主義の人種差別主義者をイメージしていましたが、実際には、AT&T社を定年退職したイタリア系アメリカ人で良識ある人のようです。

環境保護団体と言われているシー・シェパードは、アメリカ連邦高等裁判所から海賊と認定されたならず者だそうです。首領のポール・ワトソンは、年間900万円の報酬を受け取り、裁判の追求を逃れるための船上生活に2,500万円使っているそうです。

そして、毎年15,000頭のイルカを捕獲するメキシコや、毎年11,000頭のクジラやイルカを殺傷するおそれがある米国海軍の軍事訓練は見て見ぬふりをして、強く講義しない日本にだけ卑劣な手段を使いながら、自らが正義であるようなプロパガンダを繰り返します。

また、竹島については、ダグラス・マッカーサーの甥で駐日大使であったマッカーサーが、「竹島は日本海にある日本の領土」であり、「合衆国政府は南朝鮮に対して圧力をかけてこれらの島々を日本に返さなければならない」と米国国務省に電報を打っているそうです。明白な証拠ですね。


2014年10月22日水曜日

504.「世界から猫が消えたなら」 川村 元気

2015年春に佐藤健さんと宮崎あおいさんの主演で公開される映画の原作です。

「僕」は、脳腫瘍ができたために余命半年と宣告されます。そんなもとに悪魔が現れ、世界から一つモノを消せば、一日だけ生きながらえることができると持ちかけられます。

僕はその取引に応じ、まず世界から電話が消えます。
電話は僕の重要なコミュニケーション手段でした。
次に、映画が消えます。映画は、元カノの仕事であり、彼女の全てでした。
そして、時計が消えます。時計は、僕の父親の仕事であり、父の人生でした。

ついに、悪魔は、猫を消すことを持ちかけます。
猫は、僕の亡くなった母の思い出であり、僕は、形見であるキャベツという名の猫を飼っています。

悩んだ末に彼が選んだ道は・・・

一つのモノが消されるたびに、読者もそのモノの大切さを振り返ります。

男の子が成長するに従い、同姓である父親と対立し、やがてそれを乗り越え、関係を再構築していくというテーマがあるように思えました。




2014年10月21日火曜日

503.「イリュージョン―悩める救世主の不思議な体験」 リチャード バック

垣根涼介さんの「狛犬ジョンの軌跡」で主人公が彼女から勧められていた本です。

リチャードは、古い複葉機で町から町へ渡り歩き、行き着いた場所で10分30ドルの遊覧飛行を行って生活しています。

ある日、リチャードは、同じ仕事をしている、ドナルドと出会います。ドナルドはかつて、人々のトラブルを解決し、病を治す救世主として衆目を集めていました。

様々な喩え話や寓話を用いて、人生哲学を語りかけますが、正直なところ、私にはあまり刺さりませんでした。


2014年10月20日月曜日

502.「真夏の島に咲く花は」 垣根 涼介

フィジーを舞台に、その歴史と民族を基盤として、物語が展開していきます。外国に精通した著者らしい作品です。

フィジーの人口がフィージー人とインド人の半々からなることを初めて知りました。フィジー人の大らかな気性とインド人の勤勉な気性がコントラストをなして面白いです。

フィジー人があまり働かないため、イギリス人が農園で働かせるためにインドから連れてきたのが起源だそうです。その移民により、フィジーの社会構造が作られています。

労働によって富めるインド人と、土地は有するが貧しいフィジー人。それぞれが互いに対して不満を抱いています。

2000年5月に起きたジョージ・スペイドによるクーデターを題材にそれに翻弄される、良昭、茜、チョネ、サティの姿が描かれています。

その状況を、それぞれの民族を恋人に持つ2人の日本人、良昭と茜の視線から客観的に描き出しています。


2014年10月17日金曜日

501.「売春捜査官―熱海殺人事件」 つか こうへい

熱海殺人事件の別バージョンです。
木村伝兵衛という名の女性の部長刑事、彼女の下に八王子から転任してきた熊田刑事、ホモの戸田刑事の3人が、熱海で起こった山口アイコという女性の殺人事件の謎を解きます。舞台のシナリオです。

支離滅裂な会話ながら、話が展開していきます。
24歳の女性である木村伝兵衛部長刑事が熱海の海岸で、幼なじみの山口アイ子を絞殺した容疑者の大山金太郎を取り調べます。

その中で、在日韓国人、ホモ、売春婦といった、社会のマイノリティの心情や、その人達に対する差別などが描かれています。


2014年10月16日木曜日

500.「ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち」三上 延

古本屋の若き女主人、栞子が、本にまつわる豊富な知識と深い洞察力で謎を解き明かしていきます。栞子は、巨乳でメガネっ娘という萌えキャラで、ラノベの読者がターゲットだったようです。

本の装丁や、出版社の情報など知らない話が多く、著者の造形の深さに感心します。それらをうまく使って、独特のミステリーを作り上げています。4つの短編からなりますが、3作目までは、毒がなく、悪くはないのですが物足りなかったです。

4作目に、全編を貫く悪意が表出し、物語に緊迫感を与えます。読み終わったときに満足感を与える作品です。



2014年10月15日水曜日

映画「金の鳥籠」


9th UNHCR難民映画祭で「金の鳥籠」という映画を見てきました。

グアテマラのスラムに住む三人の少年少女は日々の苦しみと暴力を逃れ、安全な暮らしを求めアメリカを目指します。
途中、メキシコで彼らはチアパス出身の先住民の少年と出会います。言葉は通じないのですが、共に貨物列車の旅へと出ます。
旅の途中でで三人を待ち受けていたのは思いもよらぬ数々の残酷な仕打ちでした。
困難の末に辿り着いた夢の国、アメリカで待っていた現実とは・・・

命を賭けて越境を試みた何百もの人々の証言を基に綴られた衝撃の人間ドラマです。グアテマラについては、恥ずかしながら、コーヒーの産地位の知識しかありませんでした。
映画の主人公たちのようにエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスからアメリカへ不法に入国する保護者のいない未成年者が後を絶たないそうです。
UNHCRの報告によると、アメリカで保護された同3国出身の未成年者の数は2013年度には2万1000を上回ったそうです。

ラストシーンで、アメリカでの生活が描かれていますが、格差社会アメリカの底辺の仕事が映し出されます。これが、彼らが目指した楽園だったのかと暗然としました。





499.「佐藤優の沖縄評論」 佐藤 優

著者の母は、沖縄の久米島出身だそうです。そうしたことから、著者は、幼い頃より沖縄に対する思い入れや望郷の念を持っています。本書は、琉球新報に連載されたコラムです。

沖縄について私が知っていることはあまりに少ないです。しかし、沖縄は、他の県に比べて報道される件数が多いように感じます。それだけ、多くの問題を抱えているといいことでしょうか。

同じ日本でありながら、異なった歴史を持ち、大東亜戦争では悲しい犠牲を払わされ、未だにその負債を負わされている沖縄。中央官庁と沖縄の意識の相違などを様々な観点から教えてくれる評論です。
リンクに表示されるテキスト

2014年10月14日火曜日

498.「キングを探せ」法月 綸太郎

カネゴン、夢の島、イクル君、りさぴょんの4人は、それぞれに殺したい相手がいた。

4人は交換殺人によって、殺人の動機をわからなくし、本人はアリバイを作ることで完全犯罪とすることを目論むのだが・・・

法月警視と、その息子の綸太郎の家庭での会話によって、警察側の捜査の展開が分かり、事件解決に結びついていくという展開です。

人気シリーズらしいのですが、私には合っていませんでした。
日常性が欠けた文体と、操作情報を息子に漏らすという非現実的な設定のためです。

また、本作は、トリックが入り組んでいて、誰が何をしたのかがよく把握できませんでした。



2014年10月13日月曜日

497.「狛犬ジョンの軌跡」 垣根 涼介

太刀川は、ドライブの途中で、黒い大型犬と接触します。犬は肩口から腹にかけて、大きく切り裂かれていました。太刀川は、犬を病院に連れて行き治療します。飼い主も見つかれないので、そのまま飼うことにし、「ジョン」と名付けます。太刀川とジョンとの平穏な日々が続きます。

しかし、ある日、ふと目にした週刊誌で、銚子で3人の高校生が、巨大な大型犬に襲われ、2人が死亡し、1人が重症を追ったとの記事を目にします。犬の特徴やジョンと出会った日などが共通し、太刀川は、事件へのジョンの関与を疑います。

小説は、冒頭に事件が起こりその後に背景を説明するタイプと、最初に登場人物にまつわる前提を説明し、舞台が整ったところで事件が起こるタイプがあると思います。本書は、後に事件が起こるタイプです。

361ページのうち、200ページ位まで、特に事件が起こりません。ジョンを家に連れてきた経緯と、太刀川と彼女との関係が語られます。普通ここまで事件が起こらないと、途中で読むのを投げ出す読者もいると思います。そこまで惹きつけられるのは、著者の筆力の成せる技だと思いました。



2014年10月12日日曜日

496.「遮光」中村 文則

「私」は、子供の頃両親を亡くし、無口で感情を表さなくなります。引き取ってくれた夫婦に好かれるために、感情を偽ることを覚えます。それが高じて、平気で嘘をつけるようになっていきます。

成人した「私」は、隣室と間違えてやって来た、デリヘル嬢の美紀と出会います。美紀と深い愛情で結ばれるようになりますが、美紀は、交通事故で亡くなってしまいます。

「私」は、衝動的に美紀の遺体から小指を切り取り、ホルマリン漬けにして持ち歩きます。そして、美紀はアメリカへ留学していて元気にやっていると嘘をつきます。そして、日々、美紀を想い、嘘をついているうちに、精神のバランスを崩して、狂気の世界へ踏み込んでいきます。

常軌を逸した人間の審理は、なかなか理解できませんが、本書では、狂気に染まり始めた人間の無軌道な心の動きを明瞭に表わしています。その心情に同期はできないものの、知ることはできました。


2014年10月11日土曜日

495.「リクルートという幻想」 常見 陽平

華僑にかけた、「リ僑」という呼び名を初めて知りました。あらゆる産業分野に元リクが存在し、ネットワーク化しているということのようです。また、ネットでは、リクルート出身者を「元陸」と書くようです。元陸上部とか、元陸上自衛隊のようですが、体育会系である点で共通するのかも。

「元リクはなぜ本を出すのか?」では、人材ビジネス会社や営業力アップ支援会社を立ち上げたOB・OGが多数おり、セルフブランディングに利用されているという見解で、短期間に集中的に出版して知名度を挙げた、リンクアンドモチベーションの小笹さんのことが例示されています。

120万部を突破した「人生がときめく片付けの方法」の著者、近藤麻理恵さんもリクルートエージェント出身と知って、驚きました。

内定者確保のために、学生を安比高原へ連れて行ったという都市伝説が紹介されていますが、私は実際に安比に宿泊し、やったことがないゴルフをやりました。その他に銀座で寿司や天ぷらをご馳走になりました。いい時代でしたね。

著者は、新卒で1997年に入社し、2005年に退職しています。退社してから10年近く立っているので、現在のリクルートのリアルな情報からは離れていると思います。登場する人も2005年以前に入社した人の話が主です。しかし、リクルートの風土や仕組み、退職者の傾向が分かり、とても面白かったです。

巻末で、本書によるトラブルが起きた場合に、「リクルートの経営陣と刺し違える」とか、「どんなことがあってもあなたについていくと言ってくれた妻」とか、悲壮的なことが書かれていますが、訴訟になるような内容ではないと思います。

何だかんだ言っても、1兆4,000億円もの借金を返済し、かつ、過去最高益を更新しているリクルートは、大したものだと思います。これからも繁栄し続けて欲しいです。


2014年10月10日金曜日

494.「王国」 中村 文則

富む者が富み続け、持っている者が持ち続ける構図、それが「王国」。王国を維持するために情報操作でこの体制を管理している組織が存在している。

鹿島ユリカは、娼婦を装い、社会的要人に近づいて、共に裸で戯れる写真のような、性の恥を覚える証拠を取ることを生業としている。

ある日、いつものように指示された部屋へ行くと、男が既に死んでいた。ユリカは、事件の背後にいると目される男、木島からあるものを取ってくるよう、矢田から指示を受けるのだが・・・

著者の作品には、孤児院育ちの主人公が多いが、ユリカもその一人。ただ、ユリカは、絶望に浸かり、破滅に惹かれることなく、最後まで生き延びようとする強い生存意欲に溢れているという点で、頼もしく読めました。


2014年10月9日木曜日

493.「土の中の子供」 中村 文則

2005年の芥川賞受賞作です。

「私」は、両親から捨てられ、遠い親戚の家を転々とします。愛情に触れることなく、虐待され、放置されます。

そのために、ダメになることに惹きつけられ、破滅を求めるようになります。

恐怖に感情が乱され続けたことで恐怖が癖にように、血肉のようになって「私」の体に染み付いています。

そして、恐怖を克服するために恐怖を作り出して、それを乗り越えようとしたため、自暴自棄な行動を繰り返します。

最後に、「僕は、土の中から生まれたんですよ」と言える心情に達した「私」に心の平穏を感じました。


2014年10月8日水曜日

492.「往復書簡」 湊 かなえ

手紙という古風な媒体によって生まれる独特の情感を活かして作られたミステリー小説です。

しらゆき姫殺人事件では、SNSといった即効性のメディアでリアルタイム感を出していました。本作では、携帯電話やメールといった迅速だが無機質な情報伝達ではなく手紙の匿名性やタイムラグを活かして、過去の事件を振り返っているという形式を取っています。

100ページ程度の中編3作と10ページ程度の短編1作からなります。2作目の「二十年後の宿題」は、吉永小百合さん主演で「北のカナリアたち」の原作として映画化されました。

小学校教師を退任した竹沢は、かつての教え子大場に、20年前に竹沢が担任していた6人の教え子の消息を調べるよう依頼します。

6人は、4年生の時に竹沢とその夫と共にピクニックに行きます。そして、1人が川に落ち、助けようとした竹沢の夫が命を落とします。

この事件を6人の子供達は、どのように見ていたのか。
連絡がつかない最後の1人はどうしているのか。
なぜ竹沢は、大場に依頼したのか。

これらの謎が子供たちの証言により、全て明かされたとき、竹沢の深い想いに感動を覚えました。


2014年10月7日火曜日

491.「キアズマ」 近藤 史恵

サクリファイス、エデン、サヴァイヴと続く自転車競技シリーズの4作目。

前3作は、実業団やプロの自転車部の話でしたが、本作は大学の自転車部の話です。

私自身、自転車ロードレースに知識も興味もありませんが、著者が易しくかつ面白く描いているので飽きることなく楽しめます。

大学に入学したばかりの正樹は、ちょっとした諍いで自転車部部長の村上に怪我をさせてしまいます。正樹は、村上が復帰する1年間だけという約束で自転車部に入部します。自転車ロードレースに全く興味がなかった正樹ですが、やっているうちにどんどん面白くなり、恵まれた体格から急成長を遂げていきます。

スポーツとそれに伴う事故。そして、事故が選手生命どころか、その後の健常者としての生活や、命までも奪ってしまいます。事故への恐怖や、責任に苦しみ抜いて、その呵責を乗り越えたときに見えるものは何でしょうか。


2014年10月6日月曜日

490.「モンスター 」百田 尚樹

和子は、奇形的に醜い少女でした。4歳の頃、同じ幼稚園に通う英介に恋をしますが、英介は、引っ越してしまいます。和子は、ブルドッグのような容姿ゆえに小学校で「バケモン」と呼ばれます。

和子は、高校で英介と再会し、英介への想いがエスカレートしていきます。思いつめた和子は、自分の醜さを英介に見られないように、英介にメチルアルコールを飲ませて失明させようします計画に失敗した和子は、町中の人から「モンスター」と蔑まれ、家族から東京へ追いやられます。

東京でも醜さゆえに合コンや就活で失敗し続けた和子は、プチ整形で目を二重にします。そのことから人生が変化し始め、整形を繰り返していくようになります。和子は、数年後、英介が地元に帰ってきたことを知り、自分も地元に戻って、フランスレストランを開業し、英介との再会を待つのですが・・・

500ページの長編ですが、さほど長いと感じませんでした。ストーリーの面白さと、一文が短いという文体によるものでしょう。

整形がエスカレートしていく心理や、整形によって本人の性格が変わっていく様がよく描かれています。また、「顔より心だよ。」という言葉が虚構であるとことを何度も見せつけられます。顔が人間社会において与えている影響力の大きさ、その影響力の虚しさを考えされられました。



2014年10月5日日曜日

489.「何もかも憂鬱な夜に」 中村 文則

人間の絶望的側面を描いています。とても陰鬱な文体です。

孤児院で育った「僕」は、拘置所の刑務官として働いています。その本質は檻の中の犯罪者と変わらず、暴力や殺人の欲求を隠して生きています。
しかし、彼は孤児院の施設長から受けた美しいものへの教育によって、犯罪者にならずにいます。

「僕」は、夫婦を殺害して死刑判決を受けた山井を担当することになります。山井も孤児ですが、里親から虐待を受け、まともな教育も受けずに育ちます。周囲から控訴を勧められますが、何かを隠しており、勧めに応じません。

死刑を執行されるにせよ、人間性に目覚めて、人間として死んでいくことは意味があることだと思いました。



2014年10月4日土曜日

488.「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」 門田 隆将

朝日新聞の吉田調書に関する捏造記事が記憶に新しいですが、本書は、震災当時の福島第一原発についてのノン・フィクションです。

運転員の多くが地元出身で、高校の先輩・後輩も多かったようです。生まれ育った土地への愛情と、強い信頼関係が死をも伴う危険な現場へ向かう原動力になったのではないでしょうか。

伊沢当直長が「頼む、残ってくれ」と運転員たちに頭を下げ、若い運転員たちは現場に残ることに同意したそうです。家族とも連絡も取れない状況で、子供たちを残して死んでいくことになるかもしれない・・・それは本当に重い覚悟だったに違いありません。

第一建屋が爆発した後、吉田所長は、最少人員だけを残して、他の人間は退避するよう指示しました。それを朝日新聞は、「所長の命令に反して逃げ出した」と嘘の記事を書きました。そしてその不名誉なレッテルが世界に拡販したのです。朝日新聞の捏造は許されるものでしょうか。

また、震災の翌日に当時の菅直人首相が福島第一原発を訪れました。それにより、現場の多くの人たちの手間を取らせ、現場の人たちの作業を妨害しました。原子炉冷却作業に向かっていた自衛隊がこの訪問のために、現場近くで1時間半も待たされたそうです。一体何をしに行ったのでしょうか。


2014年10月3日金曜日

487.「グラスホッパー」伊坂 幸太郎

妻を殺された高校教師の鈴木は、復讐のため、犯人の寺西の父親の会社に潜り込みます。

ところが、寺西は鈴木の目の前で道路に飛び出し、交通事故で死亡してしまいます。

事故の背後には、「押し屋」と呼ばれる交通事故を装った殺し屋の存在が疑われます。鈴木は、事故現場から立ち去る男を尾行します。そして、その男、「槿」に接触します。

一方、自殺偽装の殺し屋「鯨」と、刺殺専門の殺し屋「蝉」もそれぞれの思惑から、「押し屋」を追いかけることになり、鈴木を中心に3人が交錯していきます。

本書は、2015年に映画公開されます。予想以上に読みやすく、どんどん読み進めることができました。

2014年10月2日木曜日

486.「国際メディア情報戦」高木 徹

基地を意味するアラビア語の「カイダ」に定冠詞をつけた「アルカイダ」。

そのリーダーであるビン・ラディンをアメリカ政府が暗殺した際、SEALsは、潜伏場所から大量の資料を持ちだしたそうです。

そして、真っ先に行ったことは、ビン・ラディンが大量のポルノビデオを保有していたことを公表することでした。

暗殺による殉教者化を権威失墜によって防ぐことが目的と考えられるそうです。確かに、ビン・ラディンは殉教者とみなされていません。

また、アメリカのPR会社ルーター・フィン社がボスニア政府からの依頼を受け、当時のユーゴスラビア政府を国連追放に追いやり、ミロシェビッチ元セルビア大統領の逮捕にまで、影響を与えたという話に驚きました。

タイトルはそっけなく、魅力に欠けますが内容は非常に面白いものでした。著者の想像も多いのですが、あながち全てが想像とは思えず、情報戦争の内実が分かります。

2014年10月1日水曜日

485.「米中開戦1」 トム クランシー、マーク グリーニー

太子党(中国共産党幹部の子弟)の韋真林は、長年、中国の経済政策を立案し、外資導入と輸出拡大により、中国経済を繁栄に導きました。彼は、共産党総書記と中国国家主席に上り詰めましたが、中国経済の実情は、破綻していました。

彼は、緊縮財政等によりこの危機を脱しようとしましたが、政敵に阻まれ、失脚に危機に陥ります。彼が選んだ手段は、南海の完全支配、香港の本土への完全な組み込み、そして台湾併合といった戦力投射、つまり、米国との戦争でした。

非常に現実的な設定です。実際の中国の経済もバブルであり、早晩破綻すると言われています。その時に、中国がこの方針を選択する可能性はあると思いました。