2015年8月31日月曜日

711.「未完の憲法」 奥平 康弘、 木村 草太

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憲法の各論について解説されるのではなく、その成立経緯やバックボーンが語られます。

「憲法というものは、世代を超えた国民が絶えず未完成部分を残しつつその実現を図っていく」というコンセプトが標題となっています。

著者達は、憲法というものの成立過程や条文間の関連性には詳しいですが、現実の政治や経済から遠く、理想論の世界にいるように感じられました。

その主張は、国益や他国の脅威、民族の統一といった観点が感じられません。日本国憲法はアメリカ主導で作られたとしても素晴らしいものだから、一切変えてはいけないと言っているように思えました。

反対することが知的に見えると思っているのでしょうか。対案は全く提案されていません。

日本国憲法を全く変えてはならないというのだったら、憲法学者は何のために存在するのか疑問に思いました。

2015年8月28日金曜日

710.「そうか、だから日本は世界で尊敬されているのか!」 馬渕睦夫

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正直なところ、自画自賛なタイトルに抵抗はあります。しかし、本文を読むと、妄信的な内容ではなく、根拠を持って語られています。

ウクライナ駐日大使として、長年勤務してきた体験から、外国から見た日本の美点が語られています。

10年ごとの首相談話は今年で止めるべきとの主張は、その通りだと思いました。もう何度も謝罪してきましたし、サンフランシスコ講和条約、日韓基本条約、日中平和友好条約で賠償も終わっています。謝罪という行為は終わりにするが、謝罪の気持ちを持ち続けて、戦争を仕掛けない国を守っていけばよいと思いました。

日韓関係、日中関係も明確に解説されています。
日韓併合時、
人口は980万人から2500万人に
平均寿命は24歳から48歳に
学校は5校から4271校に
増加し、ハングル教育も始めた。
これらは、植民地では行わない政策であり、合邦ゆえに行われたそうです。

韓国の政権担当者がこれより優れた政策を行えないので、自分たちの正当性を示すために反日政策をとることで、韓国国民に訴える必要があったとの説明は理解できました。

また、支那事変が支那全域に広がったのは、西安事件でソ連とアメリカの意向で国共合作した、国民党と共産党により、第二次上海事変で泥沼の戦闘に巻き込まれたという見解も理解できました。


2015年8月27日木曜日

709.「必ず、できる! 元米国海軍ネイビーシールズ隊員父が教えるビジネスと人生の8つの基本」 オルデン・M・ミルズ

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元米国海軍ネイビーシールズの小隊長で起業家の著者が語る8つの成功法則です。

すこし「7つの習慣」に似ています。著者が気づいた有用な行動規範で、なるほど、よい規範だとは思いますが、継続を助ける仕組みはありません。

寓話によって、8つの行動規範が説明され、その間に著者のシールズなどでの実体験が語られるので、説得力はあります。

行動規範の1つに「腕立て伏せをする」というのがあり、元軍人らしいなと思いましたが、理由も説明されているのでやってみる気になります。


2015年8月25日火曜日

708.「ルポ 中年童貞」 中村淳彦

世の中に30代、40代の童貞がこんなにいるとは思いませんでした。

かつて日本で普通だったお見合いの仕組みが殆どなくなり、結婚が自由恋愛に任されるようになったことが、一つの原因のようです。

学生時代は、運動ができた人やヤンキーがもてて童貞を喪失しますが、それ以外の普通の男性はなかなか機会に恵まれません。そして、大学進学や就職に失敗すると、童貞をこじらせてしまい、30代、40代になっても童貞のままとなるケースが多いようです。

童貞をこじらせてしまうと、それを正当化して、童貞を守ってしまうようです。
「実物の女性は、毛穴があって気持ちが悪い。」
「女性とは出来ないから、男性と性行為をする。」
「童貞でなくなると、処女の美少女と結ばれなくなる。」
「自分の中では、すでに好きな人と結ばれている。」
といった思い込みの世界に入っていきます。

中年童貞は、女性と性体験がなかった奥手の人という単純な話ではないようです。童貞ゆえに女性に異常な高潔さを求め、自分の思考と言動が気味が悪いことに気づかず、周囲と人間関係が築けないで、職場などで悪影響を及ぼすとなるケースもあるようです。

中年童貞は、単に婚姻率の問題に限らず、イジメ、ストーカー、離職といった社会問題の原因ともなるおそれがあるようです。



2015年8月21日金曜日

707.「ずるいえいご」 青木 ゆか ほしの ゆみ

著者も文中で言っていますが、内容は「ずるい」ではなく「捨てる」えいごです。

完璧を捨てる、暗記を捨てる、辞書を捨てるといった内容です。「捨てるえいご」だと、英語の学習を止めることと勘違いされるために変えたのかもしれませんが、「ずるいえいご」もあまりいいタイトルとは思えません。

具体的には、完璧な文法や難しい単語を使わず、知っている単語で易しく言い換えて気軽に会話するということです。

会話のハードルを低くして、会話しているうちに、言えなかった単語は相手が教えてくれて徐々に語彙も増えていくということです。

大人の英会話を目指すのではなく、子供の英会話を目標とする。そのために、言いたいことを簡単な英語に言い換えていきます。その言い換えのために練習方法や練習問題も豊富に提供されています。

正確な英語を話せるようにしようとしてかえって会話できなくなってしまう人に、よい英会話の入門書だと思います。


706.「翼を持つ少女 BISビブリオバトル部」 山本 弘

日本初の本格的ビブリオバトル青春小説です。

ビブリオバトルとは、数人の発表者が自分の推薦したい本の魅力を語り、参加者全員の投票で最も読みたい本を決めるゲームです。

こんな地味なテーマが小説になるのかと、疑問の思いましたが予想外の面白かったです。

普段は大人しい伏木空ですが、SFの話になると饒舌になり豊富な知識が湧き出ます。このキャラクター設定は、すこしビブリア古書堂の事件手帖に似ています。

本書は、ビブリオバトル部の部員達もキャラが立っていて、それぞれが自分の好きなジャンルの本に非常に詳しいので、様々な分野の書籍が紹介されます。

これだけの著書を様々な分野の歴史も含めて描くことができる著者の博識ぶりに敬服します。

そして、単なる書籍紹介に留まらず、それぞれの登場人物のトラウマや悪意なども描かれ、とても楽しめる本となっています。


2015年8月20日木曜日

705.「論理トレーニング101題」 野矢 茂樹

論理的思考法の本は数多くありますが、読んでも実際に使えるようになるものはなかなかありません。

本書は、思考法とともに101題の問題を実際に解いていくので、トレーニングの中でしっかり考え、確実に理解していけます。全問解くのにかなり時間がかかりました。

まず、接続詞に関するトレーニングが20問あり、これが基礎固めとなります。接続詞が付加、理由、例示、転換、解説、帰結、補足のいずれなのか意識させれらます。

論理の基本は、国語の接続詞を正しく理解し、数学の論証を身につけることで、押さえることができると思いました。



2015年8月19日水曜日

704.「ハーモニー〔新版〕」伊藤計劃

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2060年、核兵器によって引き起こされた大災禍(ザ・メイルストロム)の後、生き残った人類は各国の政府を解体し、生府によって減少した資源である人間を安全に管理するようになります。WatchMeというソフトを体内にインストールし、脳以外の全身を隈なくスキャンし、不純物を取り除き、病から解放されます。

この管理体制に反発する女子中学のミャハは、友人のトァンとキアンを誘い、自殺を図ります。ミャハは死にますが、トァンとキアンは生き残ります。

13年後、トァンはキアンと再開しますが食事中にキアンは、トァンの目前で、
「うん、ごめんね、ミャハ。」
という言葉を残し、ナイフで首を斬り自殺を遂げます。
その同時間に全世界では、6000人を超える人々が自殺を試み、約3000人が死に至ります。

トァンは、キアンの最後の言葉の謎を解くために、バクダットへ向かうのですが・・・

思想的な会話が進むために、ストーリーはなかなか進展しませんが、物事を様々な観点から考えたい人には、刺激があると思いました。



2015年8月18日火曜日

703.「世界のエリートは大事にしないが、普通の人にはそこそこ役立つビジネス書」 林 雄司

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著者は、ニフティ株式会社の社員で、デイリーポータルZというウェブサイトを運営し、編集長を勤めています。

ゆるいサイトを運営しながら得た、収益をあまり産まないが面白い取り組みをビジネスとして周囲に認めさせたり、次々と様々な発想を生み出し続けたりするノウハウを公開しています。


「かっこいいビジネス用語」を駆使するでは、
お金のもうけかた⇒ビジネスモデル
かかわる⇒コミットメント
ログ⇒ビックデータ
といった、実は大したことない言葉をかっこ良く見せることによって、周囲から一目置かれるテクニックが語られています。

仕事で実際に使えるものは多くないですが、読んでいて、クスっとします。

仕事に行き詰まったときの清涼剤として有益です。




2015年8月17日月曜日

702.「物を売るバカ売れない時代の新しい商品の売り方」 川上 徹也

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セールスの昔の格言に
「ステーキを売るな、シズルを売れ。」
というのがあります。
ステーキそのものではなく、ステーキが焼ける音で顧客を惹き付けろという意味です。

本書は、一歩進んで
「物を売るな、物語を売れ。」
と主張しています。

物語とは、お客さん、社員、取引先に対して語る、本当にあった(フィクションでない)、「個人」「会社」「お店」「商品」などにまつわるエピソードやビジョンのことです。

この物語に感動した人が、その理念に共感してファンになって商品を購入してくれるというものです。

そのために、著者は、「ストリートブランディング」という手法で、会社経営の指針をデザインすることを薦めています。

説得力があり、実行可能な方法が記載されています。自分でも是非活用してみたいと思いました。


2015年8月14日金曜日

701.「主婦が1日30分で月10万円をGetする方法 ―かんたん たのしく つづけられ むりなく リスクなし」 山口 朋子

前作「普通の主婦がネットで4900万円稼ぐ方法」は、アフィリエイト→情報商材→コミュニティ活用ビジネスという3ステップで利益を上げていく方法を語りました。

本作は、その前段である「主婦が無理なく月10万円を稼ぐこと」のメリットから語られます。

前作のようなアフィリエイトなどの稼ぎ方に拘らず、整理整頓や英会話など自分がやりたい実業をネットで集客して、家事の合間の細切れ時間で仕事することを提唱しています。

第5章でホームページ作成の具体的な方法が公開されています。ここまで本でオープンにしてよいのかと思えるところまで開示されています。しかし、この本を片手に実際に独学でやるには手間が多く、一人でやり遂げるには強い意思が必要です。また、フィードバックがないので不安感もあるでしょう。

著者自身が最初、独学で始めて3年間無収入だったという体験と、知識はいずれ他人に公開されてしまうので、自ら公開して信頼を得ようという考えかもしれません。そうすると、結局、本気でやってみたい人は著者の塾に入塾するのではないでしょうか。

主婦が家事をしながら収入を得る実践的な方法が書かれていると思いました。



2015年8月13日木曜日

700.「人を動かす、新たな3原則 売らないセールスで、誰もが成功する!」 ダニエル・ピンク

著者は、訪問販売といった足で稼ぐセールスは減りましたが、人を動かすという意味でのセールス(売らない売り込み)は増えているといいます。

インターネットの登場により、セールスは無くなるかに思えましたが、ネットオークション、マーケットプレイス、ショッピングモールなどにより、個人による新たなセールスの仕事が生み出されました。

現代では、誰もが自分の要求を通すために、人を動かすこと(=セールス)が必要となっています。

著者は、人を動かすための原則を「同調、浮揚力、明確性」の3つに定義しています。その原則を機能させる方法が「ピッチ、即興、奉仕」の3つだそうです。

人を動かすための具体的方法が説明されており、誰にとっても有益な本だと思いました。


2015年8月12日水曜日

699.「水やりはいつも深夜だけど」 窪 美澄

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6つの短編小説からなります。相互に関連性はありません。大きな事件も謎もなく、ごく普通の家庭生活や近所づきあいが描かれています。

しかし、主人公の生まれ育った環境や置かれた状況によって、心理的に追い詰められていく様がリアルすぎて怖いです。

登場人物の誰も悪気はないのですが、常に周囲の評判や要求などを気にすることで追い詰められ、息苦しくなっていきます。

相手から向けられた不満に対する主人公の反論に「そうだよね。そうなってしまうのは、わかるよ。」と共感しつつ、自分がその立場に置かれても」」打つ手がありません。自分がその状況に置かれても主人公と同じようになるだろうし、実は既に自分も気づかないうちに同じ立場に置かれているのかもしれません。

著者の作品から受ける、いつもの衝撃はありませんが、これはこれでよいと思いました。

いろいろなタイプの家族が描かれ、自分の状況とは異なりますが、すべての作品に共感でき、感情移入できました。

羨ましく見える家庭が、実は離婚寸前や子供の障害で苦しんでおり、不幸せに見えた家庭が、実は心豊かで仲良く協力していたりと、幸せって何だろうなと考えさせられる作品でした。


2015年8月11日火曜日

698.「後妻業」黒川 博行

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なかなか奇抜で独創的なタイトルだと思いましたが、実は実際の事件でも使われることがある用語のようです。

後妻業とは、資産家の老人に近づき、結婚や公正証書遺言を手に入れた後、老人を殺害し遺産を手に入れる生業のことです。

本書は、結婚相談所経営の柏木が69歳で醜女の小夜子と組んで老人を次々と喰い物にしていく様が描かれています。

老人の資産を狙うので保険金を狙いません。保険金が絡まないため、何人も不審死を遂げても警察が介入しないのです。

小夜子は醜女の老女ですが老人たちは次々と毒牙にかかっていきます。老女であっても老人たちからすれば年下であり、醜女であっても性行為をしてくれると騙されてしまうのです。

それは、老人たちが孤独で性に飢えており、お金を子供に残すより使ってしまおうという心理状態が背景にあります。

教師という安定した職業を全うして資産を得たが、それゆえに殺されてしまう耕造と、警官という安定した職業を辞め、低所得の探偵としてお金に追われる本多の姿が対照的です。
本書は詐欺事件の話と共に、世代間格差やお金に振り回される人間の姿も描かれていて、深く考えさせられました。


2015年8月10日月曜日

697.「お客は銀行からもらえ! ―士業・社長・銀行がハッピーになれる営業法」 東川 仁

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士業の営業法について書かれていますが、主に有効なのは、税理士および税務を業とする公認会計士です。

理由は、銀行は融資がメイン業務であるため、中小企業の経理に詳しい税理士が行員を手助けできる機会が多いからです。

直接的に役立つ内容は税理士に関するものが多いですが、他士業も応用できるものもありました。

また、他士業でも金融というあまり馴染みのない分野に強みを持つことで、中小企業に対して幅広いサービスを提供できると感じました。


2015年8月6日木曜日

696.「満願」 米澤 穂信

第27回山本周五郎賞受賞にして、2015年版「このミステリーがすごい! 」第1位、2014「週刊文春ミステリーベスト10」 第1位、2015年版「ミステリーが読みたい! 」 第1位の作品です。

一見全く疑惑がない事件が、ふとした疑いを持つことで隠されていた謎が浮かび上がり、意外な動機が明らかにされていきます。

6つの短編からなり、1編が50ページ程度で、文章のテンポがよいため、とても読みやすいです。

6つとも全く異なる設定ですが、登場人物それぞれの仕事内容の描写などが詳しく、臨場感があります。

特徴的な状況下で事件が起こり、その事件は、人間の心の奥に潜む、嫉妬、絶望、欲などが原因となっています。

人間の心理がよく描かれ、スムーズに読みながら少しゾッとする本です。


695.「風俗行ったら人生変わったwww」 @遼太郎

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風俗に行って、一皮むけて人生が開けたという話ではありません。
意外なことに純愛物語です。

29歳童貞の遼太郎は、魔法使い(30歳童貞)になる前にと、意を決してデリヘルに行きます。そして、ホテルにやって来たかよさんに一目惚れし、何も出来ずに分かれます。その後何度もかよさんを指名するものの話だけして分かれる日々。

親しくなったかよさんから風俗に落ちた理由を聞きます。かよさんが大学1年生の時に無理やり関係を持たされた男の借金を返済するために大学を中退し、デリヘルで働くようになったというのです。かよさんを好きになった遼太郎は、かよさんを借金地獄から救うために立ち上がるのだが・・・

単なる童貞喪失物語ではなく、DV、詐欺、追い込み、風俗業界など様々な実情が描かれます。

タイトルからは予想できない、深くて泣ける話です。


2015年8月5日水曜日

694.「日本人はなぜ戦争をしたか―昭和16年夏の敗戦」 猪瀬 直樹

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「12月中旬、奇襲作戦を敢行し、成功しても緒戦の勝利は見込まれるが、しかし、物量において劣勢な日本の勝機はない。戦争は長期戦になり、終局、ソ連参戦を迎え、日本は敗れる。だから、日本開戦はなんとしても避けなければならない。」

これは、昭和16年夏に総力戦研究所研修生で組織する模擬内閣、「窪田角一内閣」の机上演習の結論です。12月中旬の奇襲作戦、ソ連参戦、そして敗戦とすべて的中しています。この結論は近衛内閣に対しても報告されています。

それなのに、なぜ戦争をしたのか。

その理由は、他に選択肢がなくなってしまったからと思います。東條内閣、窪田内閣の2つの内閣が何度検討を繰り返しても、開戦という結論に至ってしまいました。敗戦という結果が分かっていて、内閣に強い反戦論者がいて、東条首相が天皇から非戦を求められていたにも関わらずにです。

選択肢がなくなった理由は、アメリカによる石油禁輸です。これにより、日本のエネルギー枯渇が決定的となり、インドネシアの石油を獲りに行かなくてはならなくなってしまいました。そしてこれは必ず日米開戦の引き金となるものでした。

つまり、日本からの宣戦布告を望んだアメリカの策にまんまとはまってしまったのでした。

そして、日本はインドネシアの石油を確保しましたが、輸送船が次々にアメリカの沈められたため、せっかくの石油が日本に届くことはありませんでした。

石油とシーレーン。今日でも重要な資源です。これらを失うと戦争に追い込まれるほど日本にとって不可欠の資源です。国家存亡の危機に瀕するほどの重要な資源の確保は、現代でも最重視すべきテーマです。




2015年8月4日火曜日

693.「ヒトリコ」 額賀 澪

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日都子は、生き物係を押し付けられらた小学5年生。そもそも金魚をクラスに持ち込んだ冬樹君が転校したため、一人で金魚の世話をしていました。休み明けに学校に行くと水槽の電源が切れており、金魚が死んでいました。

冬樹くんを溺愛していた担任の山本先生は、日都子がわざと金魚を殺したと決め付け、親友と思っていた嘉穂ちゃんが「殺したいって言ってたよね」と証言したことで、日都子はクラスから孤立した「ヒトリコ」になってしまいます。

「ヒトリコ」となった日都子が、どのような小学時代、中学時代、高校時代をおくるのか、ピアノを中心に展開していきます。

仲間はずれとなった日都子だけでなく、裏切った嘉穂、幼なじみの明仁、転校していった冬樹たちの背景や心理が描かれ、日都子をヒトリコにすることとなった状況も語られていきます。

どの子供にもそれぞれの家庭事情があり、大人の身勝手な締め付けがあります。それは、大人だからといって、精神が成熟しているわけではないからです。しかし、子供にはそんなことは分からず、大人の言うことに逆らえないで、精神が歪んでいきます。その歪みが身近にいるクラスメイトに向けられてしまうのです。

その中で生き抜くには、権力を握るか、権力者におもねるか、権力から距離を置くか。嘉穂、智代、日都子によってその構図が見事に描かれています。

切なくて少し悲しいけれど、最後に勇気づけられる本です。


2015年8月3日月曜日

692.「人間の生き方、ものの考え方 学生たちへの特別講義」 福田恆存

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易しい文章で難しいことが語られます。都度都度思い悩んでしまいました。

「私はいろんな評論を書いていますが、それはタブーをぶち壊すためにやっているだけの話です。」と言うように、根源的な問いかけに対する自分の返答に窮します。

「なぜ人を殺してはいけないのか」
「なぜ人命は尊いのか」
「なぜ侵略戦争はいけないのか」

いずれも即答できないのは、普段からこういう問題を考えていないからです。

本書で、議会制民主主義における「強行採決」ってなんだろうという問いに対する答えに思い至りました。

議会制民主主義というのは、話し合いをやっても通じない場合に多数の意見を採るということです。いつまでも話し合っても議会が空転するからです。

ところが、こんな時には、野党側は審議拒否をするので、与党側は仕方なく単独採決します。すると、新聞は「少数の意見を尊重しない」として、強行採決と非難するのです。

多数決が民主主義であり、負けるからといって審議拒否することはサボタージュです。それなのになぜか議論が尽くされていないとして与党が非難されてしまいます。そうすると、反対者全員を納得させて全員が賛成票を投じないと強行採決となってしまいます。

強行採決とは、負けを認めたくない側が呼ぶ、ただの多数決のことではないでしょうか。

物事の通説を白紙にして、根源的なところから考えることの必要性を痛感しました。