2017年4月26日水曜日

1148.「やめるときも、すこやかなるときも」 窪 美澄

著者の初期作品の頃のような構成、テーマ、文章描写に戻ったような作品です。この文体が好きです。

1ページ目から面白く、その面白さが最後まで続きます。本を読んでいると頑張って読み続けることがありますが、本書はそういうことなく、ただ先を読みたいと思いました。

駄目な父親2人は、日本のデフレに翻弄されてしまったようです。元々やる気も能力もある人たちですが、1つの分野に集中する能力が、その分野が衰退したときに他に移れなくさせてしまったようです。

そして、仕事、お金、自信を失ったときに酒に逃げてしまい、愛していた娘を生活に縛り付け、娘にすがって生きていくようになってしまいました。

その2人と対照的なのが哲先生です。同じ時代を生き、椅子造りという衰退産業で働きながらも椅子を芸術の粋にまで高めて生きてきました。ただ、愛する女性と一緒になれなかったことが一生の悔いでありました。

その弟子の壱晴は、哲先生の側で生きながら、結婚しようとしています。3人が果たせなかった生き方を遂げることができるのでしょうか。

「やめるときも、すこやかなるときも」
経済的に苦しいときも、病を得たときも、夫婦でそれを受け入れ、乗り越えていく。その覚悟やあきらめない心を備えているのか、強く問われているような気がしました。